明日香はTシャツ、デニムに黒いリュックで、親と住んでいる自宅から徒歩五分の古墳に向かっていた。

 自宅から徒歩五分のところに古墳だなんて、ありえないと思われるだろう。でも、明日香の自宅の傍には、本当に古墳がある。正しくは、古墳の跡だ。

「いいねえ、この土のミルフィーユ。血がたぎるわ……」

 まだ日が昇り切らぬ早朝、明日香は古墳の断面を見て興奮していた。

 およそ五世紀に築造されたと見られるこの古墳は、大型前方後円墳。教科書に乗っている、鍵型のアレ。周辺道路の拡大により削平され、今は『後円』の部分しか残っていない。今までの調査で、埴輪など多くの埋葬品が出土している。そしてこの度、残っている部分も、さらなる道路拡大のために、一部切り取られてしまった。

「やっぱり本物はいいわ」

 つい先日、切り取られた古墳の断面を間近に見ながら、専門家が古墳の作り方を説明してくれるという周辺住民向けの見学会があったようだが、明日香は知らなかった。説明会があった土日は、家で寝ていた。後でそれを職場で聞いて、涙が出るほど後悔した。