次の日の早朝、カヤの家を訪ねて来たのはナツナだった。
「カーヤちゃん。おはようございますー」
「あ、ナツナ」
壊れかけの農具と格闘していたカヤは、手を止めて入口へ駆け寄った。
丁度、畑を耕すべく家の隅でガラクタと化していた農具の修復を試みていた所だった。
「これ、良かったら食べて下さいな」
ナツナが差し出してきたのは、見覚えのある包みだった。
察するに、あのふっくらとして美味しいおにぎりのようだ。
ぐう。
まるで催促するかのように、腹が鳴った。
カヤが恥ずかしさで俯いていると、ナツナはくすくす笑いながら包みを手渡してきた。
「お腹の虫さんも、お腹が空いてるみたいですねえ」
「ご、ごめん……有り難く頂きます。ありがとう……」
頭を下げながら、それを受け取る。
ナツナは「いえいえ」と笑い、ふとカヤの背後に視線を移した。
どうやらカヤが手こずっていた農具に気が付いたらしい。
「カヤちゃん、あれはなんですか?」
「あ、森で良い感じの土地を見つけたから作物育ててみようかと思って……前の住人が置いていった農具を修理してたの」
そう説明すると、ナツナが唐突に眼を輝かせた。
「それなら私の家に良い物があります!すぐ取ってくるので待っていて下さい!」
叫びながらナツナは隣の家に駆けこんでいった。
何やらガタゴトと物をひっくり返す音が聞こえる。
(だ、大丈夫かな)
その騒音に心配していると、やがてナツナが勢いよく家から飛び出してきた。
「これ、瓜の種です!こっちはお芋の種!良かったら貰って下さい!」
その手には、袋状の布が握られていた。
「え、いいの……!?」
「はい!ご近所さんから貰ったのですが、私はお屋敷勤めなので育てる時間が無いのです。カヤちゃんに使ってもらえるなら本望なのですよ」
「何から何まで本当にありがとう……助かります」
正直どうしようと思っていたところだったので、種を貰えるのは大変にありがたい。
ナツナはカヤの手にそっと種を置くと、思い出したかのように言った。
「そう言えば、知ってますか?馬さんの糞って肥料になるらしいですよー」
糞が?
にわかに信じがたい話に、カヤは首を横に振った。
「同じ台所番の方がこっそり教えてくれたのです。あ、そうだ!今から屋敷の馬さん達の糞を貰いにいきませんか?きっと良いお野菜が育ちますよー」
わくわくしながら言うナツナだったが、一方カヤは不安そうに眉を下げた。
「でも、それって私が貰っても良いものなの……?」
「どうせ捨てるものですから、きっと大丈夫なのです。お野菜が育ったら私が腕によりをかけてお料理しますよ!」
自信ありげにそう言うナツナの言葉に、思わず嬉しさが顔に出た。
この国に来てカヤが口にしたものと言えば、ナツナの握り飯を除けば、そこらへんに生えている味気の無い葉物と、森で取ってきた美味しさとは程遠い木の実だけだったのだ。
「カーヤちゃん。おはようございますー」
「あ、ナツナ」
壊れかけの農具と格闘していたカヤは、手を止めて入口へ駆け寄った。
丁度、畑を耕すべく家の隅でガラクタと化していた農具の修復を試みていた所だった。
「これ、良かったら食べて下さいな」
ナツナが差し出してきたのは、見覚えのある包みだった。
察するに、あのふっくらとして美味しいおにぎりのようだ。
ぐう。
まるで催促するかのように、腹が鳴った。
カヤが恥ずかしさで俯いていると、ナツナはくすくす笑いながら包みを手渡してきた。
「お腹の虫さんも、お腹が空いてるみたいですねえ」
「ご、ごめん……有り難く頂きます。ありがとう……」
頭を下げながら、それを受け取る。
ナツナは「いえいえ」と笑い、ふとカヤの背後に視線を移した。
どうやらカヤが手こずっていた農具に気が付いたらしい。
「カヤちゃん、あれはなんですか?」
「あ、森で良い感じの土地を見つけたから作物育ててみようかと思って……前の住人が置いていった農具を修理してたの」
そう説明すると、ナツナが唐突に眼を輝かせた。
「それなら私の家に良い物があります!すぐ取ってくるので待っていて下さい!」
叫びながらナツナは隣の家に駆けこんでいった。
何やらガタゴトと物をひっくり返す音が聞こえる。
(だ、大丈夫かな)
その騒音に心配していると、やがてナツナが勢いよく家から飛び出してきた。
「これ、瓜の種です!こっちはお芋の種!良かったら貰って下さい!」
その手には、袋状の布が握られていた。
「え、いいの……!?」
「はい!ご近所さんから貰ったのですが、私はお屋敷勤めなので育てる時間が無いのです。カヤちゃんに使ってもらえるなら本望なのですよ」
「何から何まで本当にありがとう……助かります」
正直どうしようと思っていたところだったので、種を貰えるのは大変にありがたい。
ナツナはカヤの手にそっと種を置くと、思い出したかのように言った。
「そう言えば、知ってますか?馬さんの糞って肥料になるらしいですよー」
糞が?
にわかに信じがたい話に、カヤは首を横に振った。
「同じ台所番の方がこっそり教えてくれたのです。あ、そうだ!今から屋敷の馬さん達の糞を貰いにいきませんか?きっと良いお野菜が育ちますよー」
わくわくしながら言うナツナだったが、一方カヤは不安そうに眉を下げた。
「でも、それって私が貰っても良いものなの……?」
「どうせ捨てるものですから、きっと大丈夫なのです。お野菜が育ったら私が腕によりをかけてお料理しますよ!」
自信ありげにそう言うナツナの言葉に、思わず嬉しさが顔に出た。
この国に来てカヤが口にしたものと言えば、ナツナの握り飯を除けば、そこらへんに生えている味気の無い葉物と、森で取ってきた美味しさとは程遠い木の実だけだったのだ。