律歌は待ちきれなくて目を覚ました。

 旅立ちの日のように思考が冴えていた。

 息もつかぬまま顔を洗って歯を磨き、クローゼットを開ける。真新しい洋服が並んでいて、最初に目についたブラウスに袖を通し、キュロットを合わせた。

 鏡も見ずに、感覚だけでこめかみに花のピンを挿し入れながら、早足で階段を駆け下りて玄関へ。

 まだ薄寒い外へ、大きな音を響かせドアを開け、一思いに出てしまう。

 どこまでも野原が続き、タンポポの花が傘のように閉じたまま朝日を待っている。静寂そのもので、空気が澄んでいて、アルプスの山間のように牧歌的で、やっぱりまだ見慣れない。袖の中を通った風が、脇からわき腹をすうっと冷やした。

 隣の家には三十秒ほどでついた。鍵はむろん開いている。律歌は靴を脱ぎ散らかし、薄暗い廊下を電気もつけないまま一直線に突き進む。そして寝室の扉までくると開け放ち、

「北寺さんっ! も・う・朝~~~~っ!」

 そのまま、無防備なベッドにダイブした。

「ぐえ」

 律歌の全身の下でもぞもぞと動く物体。

「りっか……今、何時……」
「五時っ」