『海に願いを、風に祈りを、そして君に誓いを』番外編



「おっはよー! 凪沙ー!!」

いつものように、いや、いつも以上に、元気いっぱいな笑顔と声でぶんぶん両手を振りながらこちらに向かってくる優海。

彼が何を期待してそんなに生き生きとしているのか、もちろん私には分かっていた。

でも、素直に期待に応えてやるのがなんだか癪で、というか恥ずかしくて、私はあえていつも以上に冷静な口調で返す。

「おはよ、優海。今日も朝からうるさすぎ」

そのままそっぽを向いてすたすたと歩き出すと、優海は絵に描いたような絶望の表情を浮かべた。

「なっ、凪沙!? なんか大事なこと忘れてない!? ねえ、すごく大事なこと忘れてない!?」
「え、そう? 心当たりないけど」
「ええーっ!?」

ガーン、と顔の上に書いてありそうなリアクション。
さすがに可哀想になってきて、私は噴き出しながら「ごめん」と謝った。

「はいはい、バレンタインね」
「!! そう、それ! それそれ!!」

とたんに優海の顔が、頭上の太陽よりもずっと明るく眩しい笑顔になる。

「よかったー! 凪沙、最近ずっと勉強めっちゃ頑張ってたから、バレンタインなんて忘れちゃったのかと思った!!」

「そりゃまあ、受験生だし。あと1ヶ月で入試じゃん、勉強ばっかになるよ」

そうは言うものの、本当は優海のほうが私なんかよりもずっと、何倍も何十倍も受験勉強を頑張っていることを、私は知っている。

「だよなあ、あと1ヶ月ないよな。時の流れ早すぎ……」

優海が一転、情けない顔をしてがっくりとうなだれる。

「やばい、俺ちゃんと受かるかな……。凪沙と同じ高校行けなかったからどうしよ、そんなんなったら俺もう立ち直れないよ……」
「今のままじゃ無理かもね」
「マジでー!?」

優海はさらに深くうなだれた。