黒い縁の眼鏡。
そこから覗くつまらなそうな瞳。
長い指が、独特な持ち方でシャーペンを支えている。
制服は意外ときちんと着ていなくて。
少しだけ、いい匂いがする。

「……なんですか」

「ん?」

「さっきから、どうして見てるんですか」

「見てないよ」

「見てます」

そう言って、大きな黒い瞳が眼鏡越しに射抜いてくる。
その視線を受け、前の席の、更にひとつ前の席に座る佐々木は気まずそうに笑った。

「だって、菊池くん日誌書くの遅いから」

「帰っていいって言いましたけど」

返答に、佐々木はくるくるに巻いた長い髪を一束、指にくるくると巻きつける。
菊池の視線はまだ佐々木に向いている。

「だって、菊池くん、メガネだから」

「は?」

本気で呆れた顔をする。
その反応にしまった、と動揺を顔に出してしまう。

こんなことを言いたかった訳ではない。
言い訳をするにも、もっと何かあっただろう。

「いいじゃない別に。見てたって。減るもんじゃないし」

開き直ると、菊池は大きくため息をついた。
そして眼鏡を外し、机の上に置く。

日誌に再び視線を移し、やっぱり独特な持ち方でシャーペンを走らせ始めた。

「え、なんで、メガネ」

「日誌を書くくらいでしたら、メガネは必要ないので」

「だから、外したの?」

「思う存分見たらいいじゃないですか。メガネ」

「え?」

菊池の言葉に、佐々木は本気で困惑したような顔をする。
もしかして、眼鏡が好きだから、眼鏡を見ていたと思われた……?

確かに、眼鏡は捨てがたい。
捨てがたいのだけれど。
と、心の中で付け足しながら。