「頂いた資料を再度見直してみたんですが、ここ半年でドゥンケルの森付近で遺体が見つかったのは三件ほどありますね」

 ジェイドの元を訪れた翌朝、ルディガーに一通りの報告を済ませ、書類を確認した後でセシリアはさらりと切り出した。座っているルディガーに対し、セシリアは机を挟んで正面に立つ。

 これがふたりのお決まりの位置関係だ。しかしセシリアがその話を始めたので、ルディガーは部屋に備え付けの応接用のテーブルに移動するよう勧めた。

 迷いもあったが上官の指示に素直に従い、セシリアは机越しではあるものの今度はルディガーと対等な姿勢で会話を続ける。

「最初は半年ほど前、秋頃ですね。亡くなったのはクレア・ヴァッサー、十五歳。ラファエル区出身。父親のマチス卿といえばラファエル区で多くの土地を管理し、権力者として有名です。呪術にも詳しく、そちらの筋でも有名だとか」

 資料と自分でまとめたメモに目を通しながらセシリアは説明していく。それを聞いてルディガーはあることを思い出した。

「そういえば、その件はスヴェンが気にしていたな」

「バルシュハイト元帥が?」

 意外な情報にセシリアは尋ね返す。ルディガーはそんな深刻なものでもないと軽く首を傾げた。

「まぁ、確認程度だったけれど。彼女がなぜドゥンケルの森に行ったのか気になったらしくてね。あとは遺体の状況とか」

 ラファエル区はウリエル区の北に位置し、王都寄りだ。ドゥンケルの森からはウリエル区を越えて行かねばならず、やや遠い。貴族の娘がひとりで訪れるのを不審に思うのも無理はなかった。