ケータイ小説 野いちご

俺を護るとは上出来だ~新米女性刑事×ベテラン部下~

新米エリート女刑事
有名企業家 自作自演の誘拐事件

翌日は殺人犯として逮捕した犯人をとりあえず形だけ取調べして釈放し、秘書を逮捕することになった。もちろんそれらは、外務大臣の力があってのことだ。

 圧力というのはどこにでも存在するのだろうが、このQ課がもかしたら一番目の当たりにするのではないかと思えた。

 翌日は調書作り、夜は自宅。

 そして、翌々朝は調書の訂正箇所のやり直し。

 更に夕方。

 ……ずっと嵯峨を見ていない。

 本人の調書は当日既に出されている。やり直しもない。完璧だ。

 他の者もそう。暇を持て余しているくらい。

 みんな適当に過ごしているし、誰も何も干渉しない。

 だけど、警察は暇が一番いいに決まっている。

 でもその暇こそ……

「あそうだ」

 道場だ。

 配属されて1週間もしない間に昼間から道場とは呑気なもんだとは思ったが、そこにまるで呑気そうにない嵯峨がいたので驚いた。

「嵯峨さん……」

 思わず名前を呼んでしまう。

 だが相手は、ちら、とこちらを見ただけで、汗だくの顔をタオルで拭いた。

 濡れたティシャツは素肌に張り付き、形の良い腕や背中に視線が釘付けになってしまいそうになる。
 だが、三咲はそれらの余念を一瞬で排除し、息を吹いて、「お相手お願いします!!」と言い寄った。

 少し離れたジムトレーニングルームでは他に1人ランニングをしていたが、全く構うことはない。

「……」

 嵯峨は目を逸らし、さっと通り過ぎてしまったので、無視されたのかと、完全に嫌われていたのかと思ったが、

「……」

 ちゃんと位置で待ってくれている。

 三咲も慌てて位置につくと、大きく頭を下げ、そして、180を超えるその巨体に向かっていった。



 身体が軽く浮き、床に投げ出される、ということが3回続いた。

「………」

 もちろん、敵うはずはない。

 しかも、何故自分が嵯峨に話かけていったのかも分からない。

 そして、それを受けてくれるとも思わなかった。

「……」

 でも、まだ立ち上がれる力があるし、向かっていく気力もある。

 三咲は、位置についてふっと前を向いた。

「……」

 すると、嵯峨は既にスポーツドリンクを飲みながらドアの向こうへ消えて行こうとしていた。

 唐突に突き放された気がして、突然落ち込んだ。

 何が悪かったんだろう。

 弱かったから飽きたのだろうか。

 それとも礼儀がなってなかっただろうか。

 なら何か一言言ってくれれば良かったのに……。

「……」

 仕方がないので1人で稽古をしてもまだ何も呼び出しがかからなかったので、再び自ら3係に戻った。




「あ、丁度今呼び出そうと思ったとこ!」

 既に三咲以外の全員が揃って鏡のデスクの前に集まっている。

 何事かと、

「遅れて申し訳ありません!」と輪の中に入った。

「身代金誘拐事件だ」

 鏡の声に、全身が緊張した。

「人質は小学4年生の女児。西園コーポレーションの御曹司、西園 翔(にしぞの かける)の1人娘、亜子(あこ)ちゃん9歳」

 未成年でしかも小学生、全員が鏡の顔を穴が空くほどに見つめる。

「今日の13時頃、校内で遊んでいた亜子ちゃんを何者かが連れ去った可能性があるとして見ている。

 いなくなっていることに気付いたのは、13時20分。5時間目の授業に現れなかったことから捜索。自宅に連絡し、自宅から16時に通報。

 学校には防犯カメラがダミーしか設置されておらず、近くの防犯カメラからはまだ何も出ていない。

 だが、校内から用務員の男、小酒井 紀夫(こさかい のりお)と亜子ちゃんが忽然と姿を消したところを見ると、この男が連れ去った可能性が高い。

 亜子ちゃんは耳が不自由で喋ることもほとんどできない。学校関係者だし、連れ去る事は容易だったはずだ。

 15時半頃、西園 翔に犯人から身代金要求の電話が公衆電話よりかかってきている。用件としては、100億を中央区の交差点に陸橋からばら撒いた後それと引き換えに娘を返す、ということだ。

 しかし西園氏は金を出し渋っている」

 桐谷が一番に口を開いた。

「陸橋から100億ばら撒くだなんて、娘はもう死んでる可能性が高いんじゃ?」

 あっけらかんとした物言いに、三咲はさすがに睨んだ。

「西園といえば日本屈指の財閥だといえど、いきなり100億とは用意できる金額じゃない」

 山本は落ち着いて正論を述べた。

「ということは、その前に見つけ出して救出ってことッスね!」

 桐谷が元気よく言う。

「ということだ」

 鏡の一言を聞くなり全員走り出してしまう。

「え……」

 置いてけぼりをくらった三咲を待っていてくれているらしい山本が、

「位置データなどはすでにメールで送ってくれている。桐谷と相原は学校周辺の聞き込みから当たる。俺は学校に行く。三咲警部は嵯峨と西園に会いに行ってくれ」

と、説明しながらも、既に先を行ってしまう。

 追いかけようとすると、

「三咲」

 鏡に呼び止められる。

「、はい」

 全くなっていない管理者だと思われているだろう。三咲は頭を下げた。

「あいつらはすぐに動く。俺もここへ来て1年だが、今の説明の段階で桐谷と相原が周辺の聞き込みに当たると、頷いて示した事が伝わった。嵯峨ももちろん西園氏の方へ向かっている。それで残りの山本は学校だ」 

 振り分けずとも自らの作業を完璧に分けられるチームは、さすがとしか言いようがない。

「嵯峨が1人で行けないこともないだろうが、三咲が一緒に行った方が理想的だ。それをあいつも分かってる」

「はい!」

 三咲は遅れを取り戻すためにすぐに走り出した。嵯峨の腕時計に通話をかけ、一緒に行くと伝える、更に山本にも連絡を取り、学校は頼むと念を押した。

「すみません、遅れました!」

 急いで車に近よったが、

「誘拐された未成年の生存率は24時間を過ぎるとどんどん下がって行く」

「…はい」

 慌てて助手席のドアを閉めた三咲は、シートベルトを締めるなり、100億を出し渋っている西園のことを憎らしく思った。警察で新聞紙でも100億用意した方がいいのか、どうなのか……。

「…」

 嵯峨は黙ってナビの通り、西園の自宅へと向かっている。

 午後17時、平日の今日、西園は仕事が休みだったのだろうか。それとも、連絡を受けて帰って来たのだろうか。


 一等地の豪勢な屋敷へ到着するなり、中年の家政婦らしき白いエプロンをかけた女性がこちらに気付いてすぐに出て来る。 

「あぁ、警察の方ですね…」

 ゴミ出しの途中だったようだが、そのゴミもとりあえず捨てずに置いておかなければ、と三咲は考えた。

 何を見せたわけではないのに警察だと直感したらしい女性は、すぐに門を開け、2人を中へと通した。

「旦那様からお伺いしております。どうしてこんな事になったのか……」

「あの……、お話は詳しくお聞きになりましたか?」

 三咲が先に聞いた。

「ええ。100億は出さないと旦那様はおっしゃっていましたが、出して帰って来るものなら、出して差し上げてほしいものです…、私が申せるようなことではありませんが…」

 家政婦の感覚が普通だったことに安堵しながら、玄関へと進む。

 それにしても広い土地だ。ここを売れば100億には…なるかもしれない。
 
 ガチャーン!!!

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