短剣を構え、一気に相手の懐に入る。

まず狙うのは喉や胴だ。


「やぁっ!」


メアリは喉に狙いを定め、短剣をオースティンに向かって突きを繰り出した。

しかしさすがは騎士団長。

オースティンは一歩後ろに足を引き、体を反らすと「次!」と、更なる攻撃をメアリに要求した。

相手の動きを良く見ながら攻撃し、防御も怠らずトドメを刺しに行く。

もちろんこれは訓練なので本当に相手を刺したりはしないが、メアリは必死にオースティンの体めがけ、切れることのない練習用の短剣を振り下ろした。

朝食後から約二時間。

気づけば、メアリが立つ王族用の訓練場、その階下に広がる騎士団専用の鍛錬場には騎士たちが増え、オースティンの「そこまで」という声に動きを止めたメアリは肩で息をしながらお辞儀をする。


「ありがとうございました!」

「良い動きをするようになりましたね、メアリ王女」

「いえ、まだ全然目が慣れなくて、防御になると動きを追うのがやっとです」


侍女から差し出された真っ白な布で額に滲んだ汗を拭いつつ答えるメアリに、練習用の片手剣をソードラックに立てかけたオースティンは目を細めた。


「だが、動きが追えてきていることは進歩。行動パターンを覚えて先読みできるようになれば、攻撃までは無理でも致命傷は避けられる」


筋肉の動きや体勢から次の一手を先読みする。

どうやら騎士たちはそれができるようで、だからこそ強いのだと、金の装飾が施された手すりに手をかけたメアリは、階下で鍛錬に励む彼らに尊敬の眼差しを向けた。