夕暮れの駅前の雑踏の中で音楽が始まった。


真っ当なロックンロールだ。


質のいい、ストレートな響きの、音楽らしい音楽。



「腕、上げたじゃん。もともと文徳《ふみのり》のギター、すげーうまかったけどさ~」



バンドマスターはおれの友達。伊呂波《いろは》文徳。


生まれて初めて、友達って呼んでやっていいなって思えた相手だ。



何をするときよりも楽しそうな顔で、文徳はギターを弾いてる。


心地よいエイトビート。吹っ切れたような疾走感。


ときどきギュンッと激しくひずませるのがアクセントになって、オーディエンスを油断させない。



文徳は、両手の人差し指の爪がペールブルーの胞珠だ。


外灯の下でギターを弾いてると、爪に光がキラキラ反射して、何か妙にアーティスティックでカッコいい。



いや、まあ、爪の胞珠みたいにピンポイントなキラキラがなくったって、文徳は際立ってんだけどね。


おれから見ても、やっぱカッコいいもん。特に、演奏してるときは。