しばらく道なりに走った車がウインカーと共に左折して、大きな建物のエントランス前に横づけされた時。ドアマンが恭しく近寄って来たのを見て、それなりのホテルらしいと気が付く。

「先にロビーで待ってろ」
  
 津田さんに言われるまま降りると、そのまま奥に車は走り去って行った。
 訳がわからないまま置き去りにされ、かなり心細い顔をしていたんだろう。熟年のドアマンに「ご案内いたします」と、穏やかな笑みで誘(いざな)われた。
 
 高い吹き抜けの天井からは豪奢なシャンデリアが下がり、迎賓館のような格式高い雰囲気に、自分が場違いな気がして本当に落ち着かない。
 海外のビジネスマンらしき外国人や、そっと見渡してもスーツ姿で談笑している席がほとんどみたいだ。もしかして津田さんもそれに合わせたのかも知れない、と思い当たった。
 
 入り口の方を何度も見やっては、コートを膝に、ふかふかの一人掛けのソファに身の置き所もなく縮こまってひたすら待つ。
 目を凝らすうち、こっちに向かって歩いて来る津田さんの姿に、ようやくほっと息を逃し。隣りのもう一人が亮ちゃんだって、一目で分かってしまう自分がいた。