「早退しよう。」

「何を……。」

 度肝を抜かれた発言に私は言葉を詰まらせて、彼をマジマジと見つめた。

「大丈夫。明日から、いや明日は土曜だから週明けからだね。
 週明けからは倍速で仕事が出来そうだ。
 この後の仕事の予定は?
 瑛斗との打ち合わせだけだね?」

「箕浦さんとの打ち合わせだけ…ですけど。」

 再び携帯を手にした倉林支社長が電話をかけ始めた。
 握った片方の手は離されないまま。

「今日は早退しようと思う。」

 ちょ……っどこに電話……。

『どうした?具合でも悪いのか。』

「そうだな。恋の病だ。」

『恋の………。ハハッ。了解。楽しめよ。』

「あぁ。もちろん。」

 電話を切った彼は悪戯が成功した少年のような顔で言った。

「早退決定だ。」

「嘘!今ので大丈夫なんですか?」

 何もかもが信じられなくて声の感じから今の電話は箕浦さんへなのだろうけど、恋の病って……誰が?なんのこと??

「たまにはいいだろう?
 日頃、嫌というほど貢献している。
 社内的には打ち合わせをして直帰だ。
 なんの問題もない。」

 こんなに堂々とサボリってこと?
 ううん。そんなことより……。