残業を出来るだけしないように、彼とは極力二人きりにならないように過ごしていた終業間際。
 会議室の片付けをしていた私に倉林支社長が隙を見て近づいてきた。

 気づけば会議室に彼と二人きりだ。
 緊張から体を固くさせた。

「君に伝えておかなければならないことがある。」

 心臓がドキドキと音を立てて鼓動を速めた。
 思えば彼と二人きりになるのは何日か振りだ。

 残業は彼が居ない時にするように心がけているし、本社への出張みたいに仕方ないもの以外は極力二人にならないようにしていた。

 大太鼓の練習もあれ以来、ついて行っていない。

 それなのにわざわざ倉林支社長から二人きりになるように仕向けられたのだと思うと心中穏やかでいられない。

「なんでしょう。」

 あくまで事務的に対応してみても気が気ではなかった。

 言いにくそうに目を背けて口元を手で覆う彼はため息とともに言葉を吐いた。