「ね、聞いて。朝比奈に、枢木ちゃんにあんまり近づかないでって言われたんだけどさー、」

「……」

「何様なの?って返しといたー」






すっかり夏は気配を消して、秋の肌寒さを感じる季節。
夏休みの名残はもうなくて、二学期の中間テスト期間の真っ最中。



二人で放課後に遊びに行ってから、久しぶりに水嶋くんが私の教室に現れた。




四限のチャイムが鳴って美優が私の席にきたときに、教室の前の扉から顔をのぞかせる彼の姿が視界のはしっこで確認できて。


美優はそれを見て、またからかうような顔でどこかに行こうとしていたけれど、私は急いで引き留めたんだ。


美優とたべたい、ってそういう気持ちをこめてぎゅっと美優のカーディガンをつかめば、美優は何か言いかけたけれど、色々と察してくれたのか、苦笑いしながらも頷いてくれた。






それで、今、なんて言えばうまく断れるだろう、と思いながら水嶋くんの前にいる。




「枢木ちゃん聞いてるー?」

「……うん」





「え、なんでそんなつれない顔してんの?」





水嶋くんのゆるい表情の中に、うっすらと眉間の皺。


この前のことがあっての今日だから。

普通に考えたら、水嶋くんと私のこころの距離は近くなっているはずだって、水嶋くんは思ってる。

同じように、私も思ってる、けど。