ケータイ小説 野いちご

京都伏見・平安旅館 神様見習いのまかない飯

プロローグ

自分なりにがんばってきたつもりだった。
仕事も、恋も。

だけど、ある日突然、目の前から何もかもがなくなって、私のいたところがどこかへ消えて行ってしまうのを、私はただ見送ることしかできなかった。

うららかな春の日射しの中、私は迷子になったのだ。

迷子の私は、家へ帰る代わりに旅へ出た。

京都に行ったのは、私自身も忘れていた遠い日の約束があったから――。

「つらいことがあったら、いつでもここに来い」
――昔も今も、ぶっきらぼうに言う神様見習いの不器用な優しさに会うために。

千本鳥居と薄紅色の桜の下で交わした、あの日の約束が私にささやきかける。

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