棚からぼたもちならぬ、棚からシフォンケーキと表現したらいいのかもしれない。

『これからもこういう時間を一緒に共有したいので、私と付き合ってくださいっ!』

 先に好きだと告白した俺に、ショートケーキのイチゴみたいに真っ赤な顔で告げられた言葉は、自分が考えていたものよりも心に衝撃を与える、アイツらしいものだった。

 すごく嬉しかったくせに、いつものごとく憎まれ口で切り返してしまったのは失敗だったよな。

 ちょっぴり反省しながら、繋いでる手に力を入れる。柔らかくてあたたかいアイツの温もりが、手のひらからじんわりと伝わってきた。

 こうして直接触れ合える幸せを噛みしめつつ、エレベーターのボタンを押したタイミングでやっと気がついた。

「……やべっ!」

「どうしたの?」

「嬉しすぎて、昼食のゴミをベンチに置きっぱなしにしてきた……」

 このまま仲良く部署まで戻りたかったのに、現実はそう甘くない。

「ここで待っててあげるから、早く取りに行きなよ」

 思いっきり白い目で見られても平気でいられるのは、さっきキスした唇の両端が上がっているから。もしかして内心で俺のドジを笑っているから、こんな表情になっている可能性が無きにしも非ず!

 そんな考えごとをしていると、さっさと行けと言わんばかりに、力いっぱい押されてしまった背中。小柄なくせにその力は相当なもので、屋上の扉に向かって足が自動的に動いた。だけど繋いだ手を離しにくくて、思わずまごつく。

「ほらほら、早く!」

「おう、行ってくる……」

 俺の気も知らずに、アイツは振り切る感じで手を離した。自分の手と目の前にある顔を見比べると、犬を追い払うような仕草をされる。

「あと20秒で戻ってこなかったら、手を繋いであげない。お昼休みはあと少しで終わっちゃうんだから、早くしなさいよ!」

 どこか冷たい態度に納得できず、渋々踵を返した俺に向かってかけられる、弾んだアイツの声。それを聞き終わる前に、ベンチまで全力ダッシュした。

 アイツが言ってた一緒に共有できる時間を大切にしなければと、突きつけられた時間よりも早く戻り、無事に手を握りしめることができた。

 乗り込んだエレベーターの扉が閉まると同時にアイツの唇にキスして、念入りに触れ合うことも忘れない――。

Happy End