「では、私はこれで失礼します」

仕事を終えて部屋を出ようとしたところで、厄介な人物に捕まった。

「西条先生!今日はこれで終わりですか?」

振り返ると、一人の男性が小走りで近づいてくる。

「はい」

職業柄というか性格上、嘘のつけない俺は正直に返事した。

「じゃあ、一緒に行きましょう!」

「どちらへ?」

「これから妻のところへ行くんで、先生も一緒に!」

「いえ、私はご遠慮…」

やんわり断ろうとした俺の腕を掴み、半ば連行される形で車に乗せられた。

溜め息が出そうになるのを我慢して、窓の外の景色をぼんやりと眺めていた。

「先生は法務部の安住とは面識がありますか?」

「はい、あります」

瞬時にその人を頭に思い浮かべた。