(あの店員さん、どうしてあんずジャムが気に入ってるって分かったんだろ…)



赤崎優羽(あかさきゆう)は【Cafe: snow drop 】という名前のカフェを出てからずっと考えていた。

人見知りで初めての場所が苦手な優羽は、姉の美羽に何か買っていこうと母がお菓子とにらみあっている間、後ろで店員と目を合わせることもせずやり過ごそうとしていた。

なのに…



(めちゃくちゃ気にされてたんだな…)



こちらの反応が分かるくらいに見られていたと思うと、かなり恥ずかしい。

だが同時に自分のことを気にしてくれていたのが分かった時、胸の辺りがムズムズした。



(優しそうな人だったし)



あの店員の声と顔を思い出す。


優しげで、男の人らしい低めの声。
それと微笑むとキュっと細くなる目と少し長めの黒髪が印象的だった。


一瞬、目が合っただけだが、何だか妙に惹かれるものがあった。