――お前、俺のこと好きだろう。

初めて言われたとき、ナルシストにも程があると思った。

でも、否定できなかった。
本当に彼のことが好きだったから。

遊び相手の一人にもなれないだろうと思っていたのに、彼の思いがけない誠実さは、私だけを愛してくれていると信じてしまうには十分だった。

――だけど。

「別れてください」

強引な彼に惹かれていたはずなのに、もうついていけないと思った。
大人の余裕さで翻弄されれば、寂しさは堪えきれないほどに膨らんでいた。

「何言ってんだ。俺は知ってる。お前は、俺が好きなんだ」
「だったら、どうなんですか!?」

精一杯の虚勢は、傲慢な彼の笑みで木っ端微塵だ。

「そうですよ! 私は、あなたのことが好き! 好きで好きで仕方ないの! これで満足ですか!?」

バレンタインの告白は、涙混じりの酷い代物になった。
慌てて背を向ける。

「おい、後ろ向いちゃ答えられないだろ?」
「答えなんていりませんっ!」

こんな顔、見せたくないのにっ!

「あなたはいいですよ、どんな顔してたってカッコいいに決まってるんだから! いつでも余裕で、私のことからかって。強引だし……プ、プロポーズだって……」

大晦日の夜、彼は言った。

来年、結婚するぞって。

それって……私とってことだよね?
今となっては、自信がない。

「……プロポーズ、気に食わなかった?」
「あれって、本当にプロポーズだったんですか?」
「分からなかったのか? お前が了承してくれたから、泣くほど嬉しかったのに」

涙がピタリと止まる。

「お前の意見も聞いてやる余裕なくて、誤魔化すためにからかってばかりで……悪かった……まさか、そんなふうに思われてたとはな」

困惑に掠れた声。

「……ごめん。俺、自信なくなってきたよ」

自信しかないような彼が……本当に?
振り返ろうとした私を阻むように、彼は後ろから私を抱き締める。

「……まだ俺のこと、好きか?」

初めて教えてくれた、彼の自信のなさ。
あれだけ断言してたのは……もしかして、彼の願望も混じってた?

「……嫌いになんて、なれません」
「ちゃんと言え」

命令口調なのに、私の顎を持ち上げる手は、慎重だった。
後ろを振り返れば、優しい瞳が待っている。

「あなたが、好き」

私に言わせるばかりの強引な彼は、初めて私に愛の言葉をくれた。