僕が実家にいたとき、自分の部屋には、一枚のポスターが貼ってあった。

 ベッドに寝そべっていても、壁の定位置として、必ずそこに存在する。


 芸能プロダクションのオーディションに受かって、ポスターになった彼女。

 ある日、僕の家に届けられたポスターの中から君を見つけた時、僕はどんなに驚き、そして唖然としたことだろう。

 海を背景に、砂浜に咲いた色とりどりのお花畑で、彼女はアイドルユニットとして、小麦色の笑顔を振りまいていた。

 白いビキニを付けた彼女。

 別世界の彼女は、間違いなく眩しかった。

 毎日眺めて、ポスターの中の彼女と話をする。

 学校のこと、勉強のこと、身の回りのたわいのない出来事。



 僕たちの町はどんどん寂れていった。役所の前に掲示されている人口欄の数字も減る。

 大人たちはなんとか食い止めようと、苛立っていたかもしれない。焦っていたのは事実だ。

 だけれども、僕たちの年代はみな、外の世界に憧れている。それはもう、どうすることも出来ない。若者が抱く衝動なものは、大人たちも分かっている筈だった。


 そしてある日、君はこの町を出て行った。

 僕にとっては突然だったし、唐突だった。

 彼女はいつだってそうだ。必ず、僕をリードした。

 それからは、どんなところで、どうしているのだろうと、僕は毎日、疲れ果てるほど君を想うようになった。