「こんにちは」



 温室を覗き込むと、タイムの葉を摘んでいたミハイルが顔を上げた。

 レモングラスのハーブティーをご馳走になった日から、アリシアはほぼ毎日この温室に顔を出している。ようやく迷わず来られるようになってきた。



「アリシア様……付き添いや護衛の方は?」


「諸事情により居りません」



 アリシアがニッコリとそう答えると、ミハイルは苦々しい表情を浮かべた。貴族の令嬢が付き添いや護衛もなしに来るなんて……と言いたいのだろう。


 最初のうちはノアが付いてきてくれた。しかし、すぐに王宮へ足繁く通う本当の目的がバレたのだ。



『お嬢様!王宮に来る目的、殿下に会うためではなくこのハーブ園に入り浸るためなんですかっ!?』



 4回目にハーブ園を訪れた日、ノアが失望したような顔で言った。その時はさすがのアリシアも罪悪感を感じたものだ。



『お、落ち着いてノア。殿下に会うつもりもちゃんとあるわ……!ただいつもお忙しそうだから後でいいかしら……って』


『そう言って一度もお会いになっていないじゃないですか!』



 アリシアの弁明も聞き入れず、ノアはお嬢様がそんなのだから自分もいつまでも嫁入りできない……というような趣旨のことを嘆いていた。