「私さ。前までは本当にチビでバスケなんて授業でやった程度なんだ〜。」

 俺のことは無視して喋りまくってるこいつはやっぱり変わってる。

「で、中学3年の頃に急に伸びちゃって。
 今さらの成長期はいらなかったなぁ。
 今では見上げることが少なくなっちゃった。
 あ、ねぇ。
 あんたって身長何センチなの?」

 無邪気に聞いてくるチビは、俺の後ろを見て嬉しそうな顔をした。

「真央ちゃん!」

 振り向いてみると目を丸くした誰かが立っていた。
 そして聞きたくない言葉を口にした。

「澤村……選手………?」

「え?選手?え?」

 チビの素っ頓狂な声が遠ざかって吐き気がしかけたところで誰かに支えられた。

「のんちゃん。
 連日のブラックアウトはきついんじゃね?」

 あ、大悟だ。
 消えていきそうな意識が僅かに浮上する。

「また気を失っちゃったの?
 この人。デカイのに情けないな。」

「……んだよ。チビが。」

 ムカつきが勝ってそいつの腕をつかんだ。

「ハハッ。
 千尋ちゃんに任せれば大丈夫そうだね。」

「はぁ。またトイレついて行くんですか?」

 嫌そうに答えるチビにいつか絶対に殴ると心に決めた。

「ちょっと俺、真央ちゃんと用事があるから気をつけて帰ってね。
 体育館の戸締りは後でするからそのままでいいよ。」

 おい。
 この変わり者のチビに俺を任せるな。

 その一言は口から出てくれなくて代わりに隣から聞こえた。

「こいつに任せるなとか思ってそう。
 仕方ないでしょ。
 大悟先生って了承とか得ないまま任せる人なんだから。」

 こいつ大悟のことよく分かってる。
 それに俺が思ったことまで……。

「……前みたいにして。」

「へ?」

「……ほっぺ触ってたの、お前?」

 間が空いてから手が頬に触れた。
 不思議と心地よくて、眠くなって……。

「え?ちょ、ちょっと?
 今さら気を失うとかあり?」

 焦ってる声がして何故だかざまぁみろと勝ち誇った気持ちになった。