ケータイ小説 野いちご

月夜の涙

第二章 揺れ動く想い

私の目線は幼稚園児のころぐらいだろうか。低くなっていた。着物を着た女性達を私が従えている。すると女性が部屋をさした。

ーこの部屋に入るの?

私はそういったのだろう。女性は頷いた後に正座をする。

「ーーっ」

誰かが中で何かをいう。了承の合図だろう。女性達は襖を開ける。私は中を見る。大きな男性が二人、影には何かが動いている。そのうちの一人が私に手招きをする。私は歩いて膝に座る。

ー父様

私は心の中でストンッと理解した。向かい側の男性も私を見て頰を緩ませ、影にいる子を前に押し出す。

ー誰かしら。

私はその子ー私と同じくらい、あるいは少し上の子を見る。腰には刀が見える。そして少年はもじもじしながら彼の父であろうその影に隠れようとする。

ー変わった子。

父は笑って女中も笑っている。少年はますます頰を赤らめ、隠れる。私は膝から降りて彼の近くによる。

ー初めまして。私はーです。

私はそう言って手を伸ばす。

「は、初めまして!僕はーです!」

名前が聞き取れない。けれど私は理解したようで握手することを望む。彼は私の手を見てぎゅっと握ってくる。

嬉しい!

私はその気持ちが胸を占めて彼を立ち上がらせて走り出す。女中が驚くなか私は廊下を走り外へでる。父は何かをさけんでる。

ーいやだ!私は彼と遊びたい!

私は父を見ることなく走った。

彼は戸惑っていたようだが次第に私の隣で走っていた。

私はそんな彼と走っていた。日が暗くなるまで遊んだ。女中が私と彼を捕まえて邸に戻される。私は彼を見送った後に父の叱責をうけていた。

ーまた遊びたいな。

私は空に浮かぶ月を見ながらそう感じていた。










…夢?

私はもぞもぞと動きノートを取り書き記す。そして書き終わると私は時計を確認する。特に問題はない。私はいつも通りに準備をして家をでる。


橋の所へ行くとそこには朔がいた。
「あれ?朔、どうしたの?」
私は彼に駆け寄った。
「ん?あぁ。あれを見てた。」
彼は私に気がつくと、造船所をさした。
「え?朔って船オタクだっけ?」
朔は首を振った。
「違うよ。昼の時って作業してるだろ?あれを思い出してた。」
私と朔は歩き出した。私は思い出していた。人が小人のようにせっせと作り出す様は見慣れたものだった。けど、ここにいる人ならそれに思いをはせることもあまりないことだ。
「なんで?」
「夢、かな…。今日ね、火以外のところも見れたんだ。」
私は驚いた。まさか朔も進展があったとは。
「どんな?」
「えっとね。僕は作業場を歩いてたんだ。ある人は刀を作って、露天の状態だったよ。僕はそれを見た後に森に行くんだ。森は木で生い茂っていて、僕は楽しんでた。っていう夢」
私はそれを聞いて微笑ましくなる。火ばかり見るのはどうかと思ったが何故か安心していた。
「それで君は?」
「私はね雪の幼い頃の夢を見たよ。多分蒼とはじめて会って私が彼と遊びたいから連れだすっていう夢」
それを聞いて朔は笑う。
「なんか、雪って名前をつけるくらいだから大人しいと思えば活発な人だね。」
「…確かに。今思うとそうかも。」
私は名付けの時点でかなり間違えたみたいだ。どうせなら向日葵とかそういう感じにすればよかった。

「二日連続か…。しかも二人で進展あり。面白いね。」
「そうだね。でも、めぼしいものを私は見なかったから、なんともいえないけど。」
「そうだね。僕の見た夢では永住してるような感じはしなかった。場所を移動してるんだろうね。」
私と朔は二人で夢のことを話しながら学校へ向かった。





私と朔は下駄箱に着くとなにやら誰かと話している声が聞こえた。

「ねえ。今日の放課後暇?私がこの町を案内してあげる!」
この声から察するに同じクラスの桃瀬さんだろう。私とは犬猿の仲だ。私とは一年の時からクラスが同じで最初は仲が良かった…と思う。しかしその後急に私への態度がひどくなった。子供のようないたずらを繰り返してきた。その喧嘩は自然消滅したが結局の所、理由は未だにわからない。私と同じく何故か朔のことも嫌っている。そこが未だに不思議だ。私より身長は少し高く顔も可愛らしい子ではある。…あのいじめてくる性格がなければの話だが。

ー誰と話してるんだろ?

私は朔と目を見合わせる。

「ごめん。僕、今日は用事があるんだ。」

ーって司馬君か!!

どうやら司馬君のことが気になっているようだ。彼は本当に少女漫画にでてくるような人みたいだ。

「え、そうなんだ?どんな用事?もしかしてお父さんとかと料理でも食べに行くの?だったらーー。」
「僕は今一人暮らしなんだ。」
いきなり声が低くなった気がした。
桃瀬さんはそれに少し驚いたようだが、すぐに切り返した。

「そうなんだ。ごめんね、そんなこと聞いちゃって。えっと、じゃあわからないことがあったら連絡して?これ、私のメアド。」
そういうと桃瀬さんは小走りに何処かへいった。

ー怖かった。

私と朔は息を潜めるようにその場を去ろうとする。

「あれ?二人ともいたの?おはよう!」

「えっ、あ、おはよう!司馬君!」
まさか下駄箱の上から声をかけてくるとは思わなかった。 私はしどろもどろになる。
「おはよう、司馬君。モテ期が来てて羨ましいよ。いきなり女の子のメアドをとっちゃったね。」
朔はなんでもないかのような振る舞いをした。さすが朔!うまい!
「んー。そんなこと言われても、彼女結構男にメアド渡し慣れてるっぽいね。イケメンが好きなのかな。白石も貰っているでしょ?」
私は驚いた。いつの間にそんなことがあったんだろう。気がつかなかった。
「…貰ってはいるけど登録はしてないよ。それに僕は彼女に嫌われてるし。」
朔は彼にそこ汚れてるから降りた方がいいと付け加えていった。そして私と朔は司馬君と合流する。

「へえ。意外。だって君はクラスの中でも人気があるのに。どうして?」
転校したばかりなのにもうそんなことまでわかるんだ!
「そんなことないよ。僕は大体光とか田村とか野川さんと一緒にいるぐらいだし。」
「それでも君がクラスで人気があるのはかわりないよ。信頼もあるみたいだ。」
私は彼に感心した。そこまで見抜けるとは、すごい。
「まっ。そんなことはさておき、僕これから職員室に行くから。じゃっ。」
そういうと彼は走っていってしまった。
「…不思議だね。彼。光と同じくらいに。」
私はそう呟いた朔の頭を叩いた。





時はあっという間に過ぎた。私達は彼と早くも打ち解けあって仲良しになった。

「今日はロングホームルームか。なにするの?」
「えっとね。今日は出る種目の話だよ。そういえば司馬君はどこのチームに入ることになるのかな。」
私の学校は行事が早い。なんでも早めにすることで三年の受験勉強に余裕を持たせるためらしい。

「司馬君は黄組だよ。」
私は朔からそれを聞いて驚いた。
「えっ、そうなの!?」
「うん。そのことで昨日生徒会でもめたんだ。生徒会はイケメン好きが多いからね。かなりすごい討論が起こったよ。」
朔は遠い目をしながら呟いた。この学校は女子が強い。その状況は簡単に予想できた。
「そっか。じゃあ皆と離れるね。」
「えっ?なんでわかるの?」
「だって、君が持ってる紙は白組ってあるもん。」
私は納得した。昼休憩に二年のまとめ役に呼ばれた私と冬と朔はこの紙を渡されたのだ。ちなみに朔は白組の団長になった。
「田村は赤組でしょ。柚木は青組の団長だし。」
「よくわかったね。柚木君が団長って。」
「田村が教えてくれたんだ。団長同士の騎馬は見ものだっていうから。」
確かに田村はとても運動会、つまりはお祭りがとっても好きだ。今回赤組は、二連覇を狙ってる。私達白組は三位だったが今年こそはと一位をねらっている。朔はそんな組の雰囲気をみて『チームの足を引っ張るかもしれないし、僕は遠慮するよ。』と、いったものの皆の反対にあって団長に就任することになった。私は朔をじっと見つめる。朔は身体が丈夫ではないから心配だ。
「あ、いたっ!司馬君!!一緒に行こ?」
すると、桃瀬さんが司馬君を呼んだ。
司馬君は彼女をみて私達に手を振って教室をでた。
「僕たちもでようか。」
「そうだね!絶対に負けない!頑張ろ!」
私は朔と一緒に教室を後にした。

「それでは、皆さんこれから種目決めに移ります。進行役は応援団長の二年山口です。よろしくお願いします。」
私は冬と後ろの席に座っていた。朔は組団長なので前にいる。
「ねえねえ!何する?今年!」
「んー…私は今回はリレーに出ることになってるから、玉入れは出ないかな。係の仕事もあるし。あと、参加できるのは…。」
「よし!じゃあ私と一緒に障害物借り物競争だ!」
私は少し驚いた。
「待って!あのコスプレするやつでしょ!?やめとこうよ。もしライオンの着ぐるみに当たったら…」
我が校の着ぐるみはなんとも言い難いものだった。特にライオンの着ぐるみは目が怖い、頭が異常にでかい、たてがみが大きい。とにかくあまりにも褒められるものではなかった。あれにあたってしまい着た不幸な生徒は借りるものが幼稚園児だった。近寄らない幼稚園児に景品のパンでなんとかしようとする様はまさに誘拐犯を思わせた。さすがになくなったかと思われたあのコスプレはその後処分されることはなく、倉庫に保管されてる。あの暗い倉庫に一人で入ることができないほど怖い。目が光っているからだ。

ーつまり、参加したら着ることになる可能性が大!

私はそれは絶対に避けたかった。

「じゃんけん…」
「えっ。」
冬は手を出す。私も手を出した。
「私の勝ち。じゃあ決まり!障害物のやつ私と光で出まーす!」
「えっ!?ちょっ…!!?」
なにやら流れで決まってしまった。







私はロングホームルームが終わった後、朔と冬と共に自分達の教室に歩いた。

「頑張ってね。二人共。」
「パンがかかってるもの!絶対に勝つ!」
「…パンは参加賞だから勝たなくてもいいんじゃないかな…?」
そんな私の言葉はスルーされた。
「借り物か…。なに入れようかな。」
そうだった!朔は生徒会だ!借り物は彼らが書くのだ!
「朔!お願いだから変なもの入れないで!?」
「えー。どうしようかなー。」
朔に懇願するも朔は取り合う気がないらしくそのまま歩いて行く。

「それで、この種目はね。」
「へー。そうなんだ。」
すると桃瀬さん達の声が聞こえる。私は何故かわからないが身体を隠した。
「どうしたの?伊澤さん?」
「あ、柚木君。ちょっとごめんね!」
どうやら青組の会議部屋だった化学室に入ってしまったようだ。彼は私と共にドアの隙間を見つめる。
「あ、司馬君と桃瀬さんか。」
「うん。そう。」

「他に知りたいことがあったらなんでもいってね!私、力になるから!」
「ありがとう。桃瀬さん。」
「お礼はいいわよ。仲間なんだし!それよりフォークダンスが最後の種目にあるんだけど、わかるかしら。まずこうやって…」

彼女は彼の手をとって構える。彼と彼女の顔はとても近かった。

ズキッ

私の胸は何故か痛み出した。
「積極的だね。彼女。」
「…うん。そうだね。」
私はそれ以上見るのが嫌で目をそらした。笑う彼と彼女ははたからみたらとてもお似合いで私は自分の容姿を少し恨んだ。

ー私が冬とか桃瀬さんみたいに可愛かったら…。

私はこみ上げそうになる涙を拭って立った。
「よし!私も教室戻るね!」
「えっ?今!?」
私は考えなしにドアを勢いよく開けて走り出した。
「あれ?伊澤さん…?」
「…。」
司馬は柚木をみた後彼女の手を離して走っていった。

「………。なんなのよ。あの女……!!」
廊下では桃瀬さんのそんな声が虚しくも響いた。


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