「なんじゃあんな奴! なんじゃあんな奴!」

 化物堂に駆け戻ってきた桜子先輩は裏の休憩室に直行すると、机に突っ伏して泣き始めました。お気持ちは痛いほど察します。まさか全く他意のないお誘いだったとは。勘違いしてしまったのが恥ずかしいやら悔しいやらで心が引き裂かれそうなのでしょう。

「ひどいじゃろう! こんな、こんなの! うわーん!」

 泣きじゃくる桜子先輩に声をかけることもできず私はおろおろすることしかできませんでした。と、その時、悲嘆のどん底にある桜子先輩に声をかけたのは、意外にも閉店作業を終えた椿屋先輩でした。

「復讐する?」

 簡潔な提案に桜子先輩はがばりと顔を上げると、勇ましく宣言しました。

「おう、復讐してやろうではないか! 仕返しじゃ! お礼参りじゃ!」

 腕を振り回し、尻尾をぶわっと膨らませながら桜子先輩は言います。椿屋先輩は薄く笑ったようでした。

「じゃあひどい目に遭わせよう」

 こわっ。笑顔の椿屋先輩、めちゃくちゃ怖いです。桜子先輩もその表情を見て、不穏なものを感じたらしく、慌てて何かをしようとしている椿屋先輩に縋り付きました。

「ち、ちょっと待て、復讐と言ってもだな、もっと可愛らしいものでな?」

 桜子先輩が必死に訴えると、椿屋先輩はすっと笑顔を消して、桜子先輩に首を傾げてみせました。

「どうして?」

「そ、それは……」

 言葉に詰まって桜子先輩は俯いてしまいます。椿屋先輩はそんな桜子先輩の顔を少し屈んで覗きこみました。

「それでも化田のこと好き?」

「う、うぐぐぐ……」

 これには桜子先輩も唸ることしかできません。見事な手腕です、椿屋先輩。これで少しは桜子先輩も頭が冷えたことでしょう。

「おい」

 その時、休憩室を覗きこんできたのは店長のハゲ頭――失礼、スキンヘッドでした。店長は言葉少なに用件を伝えてきます。

「客だ」

 店長に案内されて、とぼとぼと部屋に入ってきたのは、渦中の人物。化田さんでした。