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 それからどうやって家に帰ったかは覚えていない。


 まだ契約中の社宅の部屋に入れば、いつも通り殺風景な部屋が迎えてくれる。


 女性の部屋とは思えないそこは、わたしが必死で働いていた証拠かもしれない。
 住む場所にまで手が回らないというか、安いカプセルホテルのように寝るだけの場所になっていた。


 スーツのままベッドの上に座れば、濃い一日が蘇る。


 その時、スマホが鳴り始めてドキリとした。


 まさか、会社?
 カフェ雑貨はぴねす? そうだったら嬉しいんだけど。



「……違う」



 画面に出る母の文字。
 出たくない。でも出ないと会社にまでかけてくる心配性だから出るか。仕方ない。


 とにかく、まだ会社辞めたことは黙っておこう。