王宮の正門に程近い場所に、南宮殿がある。

この宮殿は黒龍騎士団の本部であり、使用人に恐れられているうえに立ち入り禁止のため、普段はアリ一匹たりとも近づかない。

団員は荒くれ者が多く、指揮を執っているのは世にも恐ろしい鬼神と呼ばれる団長、アルフレッド・マクベリー。

国王陛下の御前でも堂々としており、王太子殿下と親しく、いつも冷静で冷酷。

鋭い瞳を光らせて怖い顔をしており、心からの笑顔を見た者は、ほぼいない。



「まったく、お前は。俺の執務室を花畑にでもするつもりか」


アルフレッドは眉間にシワを寄せて、黒龍殿唯一の使用人であり、自身の恋人であるシルディーヌを睨んだ。

シルディーヌは朝一番に庭師からもらって来たという籠一杯の花を、棚やテーブルの上にせっせと飾り付けている最中だ。

以前花には興味がないと言ったはずだが、覚えていないのか。

覚えてはいるが、そんなことはお構いなしなのか。

まったく困った者である。


「あら、アルフったら違うわ。これくらいじゃ、花畑とは言わないわ」


ひとつにまとめたピンクブロンドの髪を揺らして振り返り、ぷんと唇を尖らせる。

そして花畑がどんなに素敵で感動するものかと、今は王宮の花壇がすごく綺麗なことを、瞳を輝かせてひとしきり語る。


小さな顔に大きな翡翠色の瞳、白い肌に血色のいい頬、艶めく髪が揺れれば花の香りがアルフレッドの鼻をくすぐる。

アルフレッドにとって、花はいつもそばにあって、この一輪しか要らないもの。

数日経てば枯れてしまう花など眺めて、どこが面白いのかと思う。