もし、あの時赤い糸に結び目ができたのではなく、ぷつりと切れてしまっていたのだとしたら。

もう一度結んでやればいいだけの、話だった。



そもそも、運命の赤い糸が1本だなんて決めたの誰だよ。

……もし本当に運命の相手なら、もっとたくさん結びついてる可能性だってあるだろ?



【Side Ayase】



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「ねえお姉ちゃんこれとこれだったらどっちがかわいい!?

ねえねえお姉ちゃん待ってようううう……!」



「ちょっ、かのちゃん離して……っ。

家の外で綺世待ってるから離して……!どっちも可愛いわよかのちゃんならなんでも似合う!」



家の中から完全に聞こえてきている姉妹のやり取りに、思わず苦笑を漏らす。

それは俺の隣にいる"ヤツ"も同じらしく、「懲りねーな」とつぶやいてるけど。……俺はまだ、こいつがひのと過ごした数ヶ月を許したわけじゃねえからな。



「ごめん綺世……!

って、かの!早くしなさい夕李いるわよ!?」



顔を覗かせたひのの肩の上で、さらりとやわらかく髪が流れる。

美人だなと今更なことを思いつつ、「待ってる」と返してやれば、今度中から聞こえてくるのはあいつの妹の声で。




「えっ、夕ちゃんもう来てるの!?

待ち合わせ時間まだ先だよね……!?」



「知らないわよ夕李に聞いて……!

お母さん行ってきます……!かのちゃんまたね!」



「あっ、ちょ、お姉ちゃん……!」



サンダルに足を入れてぱたぱたと駆け寄ってきたひのが、ようやく妹から逃れられたようでほっと息をつく。

そのままお揃いの指輪が嵌るひのの右手を恋人繋ぎで絡め取れば、ヤツは「仲良しだな」とどちらに向けたものでもない笑みを見せた。



「おかげさまで。ごめんね綺世、もうやだかのちゃんとデートの日二度とかぶりたくない……

せっかくの時間がもったいないからはやく行こう?」



「おー、いってら」



ひらり。

手を振って主にひのを見送るヤツの姿が、見えなくなってから。ようやく、浮かんでいる疑問を口に出す。