あいつには、敵うわけねえって何度も思った。

敵うわけねえし、叶えてやれねえって。



……でも、一言だけわがままを言うのなら。

"俺が幸せにしてやりたかった"っていうのも、嘘じゃない。



【Side Sonata】



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「そなちゃーん。……あれ、ひのちゃん寝たの?」



ぴろっと。

仕切りの向こうから顔をのぞかせたゆゆに、「徹夜したんだと」と待ち合わせしたときに聞いたことをそのまま伝える。



どうして徹夜したのかは知らねーけど、なんか色々考え込んでんだろ。

……でもまあ。あいつのこと好きって、ちゃんと自分で自覚して伝える決意もしてんなら、何も深く聞く必要はない。



「お前忙しくねーのかよ」



いま13時半だぞ。

飲食店で普通に忙しいランチタイムじゃねーか、と思っていれば、ゆゆは「だいじょうぶー」と中に入ってきて笑う。




「夏休みだからバイトの子ほかにもいるしー。

マスターなんだかんだ後輩に甘いから、話してきていいってー」



……そんな軽くていいのか。

バイトとかしたことねーけど、ほかのヤツらに恨まれても知らねーぞ。ああでも、ここでバイトしてるのって百夜月の関係者多いんだよな。



「そなちゃん、言ったの?」



「はあ?何が」



「ひのちゃんに、告白したのー?って」



好きだったんでしょー、と。

他人事のように告げるコイツにはイラッとくるけど、別に俺だって隠してるつもりだったわけじゃねーし。むしろ、ひのにバレてんのも知ってたからな。



「俺は告白するためにこいつを呼び出したんじゃねーよ。

……はじめっから失恋する気で呼んでんだよ」