「これ、できました」
「そこにおいといて」
「あの……確認してください」
「いいよ、アンタがやったんなら」
「はぁ……」
まただ……
東さん、困った顔をしてるじゃない。
森本さんって、どうしてもっと優しく言えないんだろう。
本当は優しい人なのに……
「ほんっとに無愛想だよね、森本さんって。書類を渡しても顔も上げないのよ。
”アンタがやったんなら” って何よ!
”ありがとう、助かった” くらい言いなさいよ!」
「でも、それって、東さんの仕事なら間違いないって、そういうことでしょう?」
「言い方が気に入らないの。あんな人、義理チョコもあげたくない。
去年なんて、義理チョコを渡したら ”どうも……” って言ったかと思ったら、目の前で包みを開けて、パクッ、ってひと口よ!」
「あはは……」
「あはは……って、牧野さんは森本さんにチョコをあげるつもり?
見た目が良くてもあれじゃね。礼もまともに言えない人に、渡しても意味ないわよ」
私にはそうは思えないけど。
確かに森本さんは無愛想だし、素っ気無い返事しかしないけど、ちゃんとお礼を言ってくれる。
ただ、余計なことを言わないだけ。
「どうも」 とちゃんと礼を言って、目の前で食べてくれるなんて、私は嬉しいけどなぁ。
そういう私も、少し前まで森本さんは苦手だった。
付き合いも悪いし、断り方も断定的で、この前だって……
「森本さん、キャンペーンの打ち上げ、参加でいいですか? たまにはみんなと一緒に飲みましょうよ」
「いいよ、俺に気を遣わなくても」
あんな言い方では誰だって気を悪くするのに、そんなこともわからないのかなと、その日まで思っていた。
打ち上げ会場に行く途中、忘れ物に気がついて会社に戻ったときのこと。
部屋に近づくと、森本さんと主任の声が聞こえてきた。
仕事の邪魔にならないように、そっとドアを開けると……
「助かったよ。むこうさん、急に日程変更してくるから、俺ひとりじゃどうにもならないところだった。
森本君、今夜は打ち上げだったんだろう? 悪かったな」
「いえ……それより早く仕上げましょう」
それぞれの机の上に缶コーヒーが見えた。
主任は無糖ブラック、大人の味と定評のコーヒー。
森本さんのは、コクはあるけれど糖分もカロリーも高めの、スタイルを保ちたい女子は絶対に手を出さない部類のコーヒー飲料だ。
えっ、もしかして森本さんって甘党?
そういえば、森本さんの酔った姿を見たことはない。
お酒を勧めても、自分のペースで飲むからいいといって酌を断るらしい。
甘党でお酒が苦手、だから飲み会にも参加しないのか……
そうか、そういうことだったんだ。
私は、そっとドアを閉めて足音を忍ばせながら部屋から遠のくと、近くのコンビニまで走っていき、軽食とお気に入りのスイーツを購入後、ふたたび会社に戻った。
「忘れ物を取りに来ました。残業お疲れ様です」 と声をかけて二人の前にコンビニの袋をおくと、「頑張ってくださいね」 と軽い感じで言い、駆け足で部屋を出た。