「何をそんなに? 王子のお尻なら昨晩、観ていただろう」

「ふ、副騎士長! セクハラですよ」

わたしは上擦った声で紅蓮殿を睨む。

「ご気分が悪くなられたら、直ちにお伝えくだされ、我慢はなりませぬぞ」

王子はハーン殿に無言で数度頷き、身を委ねた。

ハーン殿が大きく深呼吸する息遣いが、どれほど慎重になっているかが解った。

サッサと済ませてほしいと言わんばかりに、王子が「まだ終わらぬのか」と訊ねられる。

「今しばらく。ご気分は?」

「大事ない」

ハーン殿は何度も王子に問いかけ、数分間かけてゆっくりと痛み止めを投与された。

深い溜め息をつき「終わりました」というハーン殿の声が聞こえた。

振り返ると針を抜いたハーン殿が、接種部分にアルコールの染みた綿を絆創膏で貼り付けているところだった。