駆け足で春が過ぎ、あっという間に夏になった。
生温い夜風に吹かれながら、ベランダからお月様を見上げる。
今日は綺麗な満月だ。
どうかーーどうか。
明日のお父さんの手術がうまくいきますように。
祈るように両手をギュッと合わせ、目を閉じて心の中で強く願った。
あれから入院して抗がん剤治療を続けた結果、お父さんの癌は手術が出来るほど小さくなったらしい。
手術をしたあとも抗がん剤治療はやめられないので、長い闘病生活になるだろうとのことだった。
でも、大丈夫。
きっと治るから。
治らないわけがない。
お母さんの言葉に、あたしもゆりもホッとしたのを覚えてる。
お父さんとは相変わらずまともに話していないけど、きっと大丈夫だよね。
大丈夫でいてもらわなきゃ……困るよ。
そして迎えた手術当日。
「お父さん、頑張ってね……!」
「あなた、行ってらっしゃい」
ゆりとお母さんがお父さんの手をギュッと握る。
あたしはそれを少し離れた場所から見ていた。
「ああ、行って来るよ」
ストレッチャーに乗せられたお父さんが、手術室に向かって行く。
お父さん……頑張ってね。
無事に帰ってきてね。
絶対に成功するはずだから。
こんな時でもあたしは……心の中で声をかけることしか出来なかった。