『クソ…何て強情な女だ…。
だからと言って、ドラケンやラプも引いてはくれないし…』

満月が照らす夜道でラファールがボヤいた。
きっと、向こうで説得を試みてダメだったから私たちの所に来たんだろう。

『何かゴメンね。
トキユメは一度ああなると、誰の言うことも聞かなくなるから…』

私はその少し後ろを歩きながら苦笑いでそう言うと、ラファールはクルリと振り返り私を見た。

『ところで貴様…どこまで付いて来るつもりだ?』

『いや、折角わざわざ決闘を止める為に来てくれたんだし、馬車まで送るよ』

ラファールたちは村外れに止めた高級馬車の中で一夜を明かすらしく、一人で帰すのはあまりにも不憫かと思い私が送ることにした。
しかも何故か、トキユメとミゼリアがやけに私の背中を押してきたし…。

『だが、それでは僕を送り届けた後は貴様が一人になるではないか』

『いや、別に良いよそれは。たいした距離でもないし』

ソルトナは小さな村だ。
夜も更けたこの時間に外を歩く者は私たち二人くらいで、心地よい風が吹く静かな景色の中に虫の声だけが響いている。

『そうはいかん。こんな暗闇を女一人で歩かせたとあっては王族としての僕のプライドが許せん!』

ラファールのその言葉に、私は少し驚いた。

『ありがとう。
てか、てっきり私、ラファールに嫌われてると思ってたからそんな事を言われるなんて思いもしなかったよ』

『なっ…!何故に僕が貴様を嫌わねばならんのだ!!
無い!!そんなことは断じて無いからな!?』

ラファールのあまりの剣幕に私はたじろいだ。

『わ…分かったから…とりあえず、嫌われてない…ってことだよね…?』

『ああ!そうだ!!
だっ…だが勘違いするな!?
べ、べ別にすっ…すす好きってわけでは…ななな無いからな!?』

分かってるよ、めんどくせーな。

『うん、ありがとう』

とりあえずこの話を終わらせようと、私は愛想笑いでそう返すとラファールの前を歩き始めた。

『待て!ありがとうって何だ!?
それは、嫌いではなくてってことか!?それとも、好きではなくてってことか!?
どっちだ!?おい!!』

『うるせぇえーーー!!
前者だよ前者!!』

私は思わずラファールの頭を手で叩いてしまった。
彼が王族だということをすっかり忘れていたのだ。

『あ、ゴメン…』

俯いて大人しくなったラファールに、私は完全に怒らせてしまったと思い後ずさった。
だが、ラファールは顔をパッと上げると満面の笑みを浮かべながら高らかに声を上げた。

『そうか!前者か!!そうか!!
ハーハッハッハ!!』

何だこいつ?
テンションが全く読めないんだけど。

私が呆れ顔でタメ息をついていると、後ろの方から何かの気配を感じた。

『グルルル…』

獣的な唸り声が私の背中へと突き刺さる。
間違いない…私の背後に何かおる!!
そして私の方へと確実に近づいて来とる!!

『アーリッヒ!!
こっちへ来い!!』

危機を察知したラファールが私の腕を掴み引っ張った。
その瞬間、獣的なソイツは私たちへと一気に飛びかかって来た…!!