踏み越えることが出来なかったものが取り払われて、
想いが通じ合ってからのしばしの別(離)れが、こんなにも自分の心に影響しているとは思わなかった。

前以上に願う欲求が膨れ上がり、独占したい気持ちが深まっている。

つき合い始めてからもうすぐ3ヶ月。


愛しくて仕方がないのに……


相変わらず鈍いのは“一線”のせいじゃなかったわけで……




「紫音………それマジで言ってる?」
『……………』

俺の不機嫌さは敏感に感じ取るのに……

シュンとした顔で、俺を上目使いに見つめてくる。


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以前から出ていた俺起用のモデルの新規の仕事。

ファッションデザイナーの母さんが主に動いている新企画で、他ブランドとのコラボ話になぜか紫音が関わることになっていた。

よくよく聞けば、紫音が助っ人でピアノ奏者をしていた日に、仕事の打ち合わせでその店を利用した母さん。

そこで紫音を見つけ、母さん自身決めかねていた新企画のモデルのイメージが紫音にピッタリだったことと、一目で気に入ったことに、紫音をスカウトする目的で足しげく店に通いつめていたらしい。

今でこそそれは解決に至ってはいるけど、それも聞けば、俺が新規の仕事の返事を渋っていた以前からの問題だったようで、母さん自身が抱えていた“イメージに嵌まらない”候補者達は、母さんの中での不安要素だった。という事だった。


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確かにあやふやなことを言っていた母さん。



“天使だから期間未定”

“秘密が多いってワクワクする”


それもそのはず、紫音のことは店側があえてシークレットにしていたから。

思い出してみたら、紫音を見つけてからの母さんは、とくにいろんな意味で覇気に満ちていた気がする。