「黒川鈴」

 昼休み、廊下で浅倉に声をかけられる。

「………なんでしょう」

 もう、私はあなたに呼び止められる理由がないと思うのだけれど。

「俺は嬉しいよ。お前も大人になったんだな」

「……用事がないなら失礼します」

「なんだかお前を叱らないで済むと思うとちょっと寂しい気もするな。でも校則は守ってもらわんとな」


(……ややこしいハゲだな。)


 私が履いているのは、膝下までの白ソックス。

 ツインテールは高さを落としておさげに。

 それを束ねるヘアゴムは黒。

 つまり、校則を何一つやぶっていないのだ。


 着たくもない制服をこんな生徒手帳通りのスタイルで着ているのは、逢阪竜也に

『校則ごときを守れないガキに任せられる仕事はねぇ』

 なんて言われたから。………守ってやろうじゃないの。

 たった一度、スタジオ見学しただけなのに。

 あのキラキラしたセカイに魅了された。

 あそこに足を踏み入れるのだと思うと、ワクワクが止まらない。

 私がお仕事でたくさん稼げるようになったら、多分、おじいちゃんとおばあちゃんにも恩返しができると思う。

 自分でも驚くほど私は、やる気に満ちていた。