香ばしい紅茶の香りが鼻に届いた。だが、その香りに酔いしれる気にならないのは、目の前の状況のせいだろう。

 琴子はケーキを頬張ると、満足そうに微笑んだ。彼女の笑みの原因はケーキがおいしいというわけではない。

「でね、彼ったらすごく優しいんだ」

 砂糖をまぶしたような甘ったるい声で彼女は最近できた彼氏とのことを楽しそうに語った。

 彼女はつい最近、二歳年下の彼氏ができたらしい。

 その話を聞かせたくて、高校の友人を呼び出したというのが今の状況だ。


 もっとも彼女たちに会うのは、婚約破棄以降のことだ。誘われたとき、わたしも気が進まなかったし、断ろうとも考えた。だが、もう一年を通して数えるほどしか会わない彼女たちの間に波風を立てるのも気が引けたのだ。

 それに明日は岡本さんと彼の祖父母が昔経営していたカフェに行く約束をしていた。明日への約束の楽しみな気持ちが、今のわたしの微妙な心を落ち着かせてくれていた。

 机の上に置いていた、琴子の携帯が振動した。

 彼女はわたしたちに断ると、携帯を手に店の外に出て行った。

 店の外で笑顔で言葉を交わしていた。

 おそらく、その電話をかけてきたのは彼氏だったのだろう。

「本当、あの子って年下好きだよね」

 亜津子は頬杖をつくと、そうぼやいた。