「ご無沙汰しております、東堂様。」


結局手は繋いだまま、目的地であるレストランまで来てしまった。


さすが、社長。ウェイターさんが名前も聞かず、顔を見ただけで接客を始める。


「いつもご贔屓にしていただきありがとうございます。」

「いやいや、こちらこそ。先方はもう来てる?」

「来てらっしゃいますよ。ご案内いたしますね。」


ウェイターさんが店の奥へと歩き出したとき、繋がれていた手がようやく離れる。


やっと心臓が落ち着こうとしたとき、腰に温かい感触。


それが社長の手だとと気づいてしまい、落ち着いたはずの心臓がまた一気に暴れ出す。


ピアノの生演奏も全然耳に入ってこない。

凄すぎるシャンデリアとか、客層がセレブばっかりだとか気になる部分はたくさんあるはずなのに。


今はもう、腰に置いてある社長の手に全身の神経が向いていて何も考えられない。