出世コース一番乗り、最年少の業務課長、かつ○かれたい男No.3、自他の認める無節操のプレイボーイ。
 そのほかにも、種々の悪名を持つ社の有名人、大神秋人のプロポーズは、あの時屋上に居合わせた愛煙家達の手により、翌日にはオンラインを通じて全本支社に伝わった。

 以降、
 燈子の生活は、何かとハードなものになった。

 引きつがなければならない仕事を山ほど抱えた大神にかわって、引っ越しや新居の準備、諸々の手続きを一任され、自分自身の退職もあいまって、目の回るような忙しさだ。

 それも一つにはあるが…

 「来たわよ、赤野さん早くっ」
 終業のベルと共に、水野女史が眼鏡を光らせる。

 「はっ、ただいまっ」

 帰り支度を整えた燈子は、素早く避難滑り降りる社を抜ける。
 「赤野燈子って奴、ど~こ~だぁ~」

 とくにここ最近の、大神の悪行のツケが、大挙して押し寄せるからだ。因果応報、災厄は当人には降りかからない。

 
 というわけで、手続きや打ち合わせ以外で2人で逢う機会もなく、ロマンチックなシチュエーションなど一度もないまま二人は、あっという間に3月の壮行・お別れ会を迎えた。