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 本社ビルの前に立って見上げると、もう夜も遅いのに、所々に灯りが着いている窓がある。
 3階端の業務課オフィス。
 そこに明かりがあるのを確認すると、熊野は “ん” と頷いて、決然とそこに乗り込んだ。


 部屋に入ると、やはり大神がいた。
 最低限の蛍光灯を着けて一人きり、モニターの青白い光に照らされて、カタカタとキーボードを打っている。

__夜中まで仕事とは、ご苦労な事だ__
 熊野は厳しい顔つきで、ツカツカと課長デスクに歩み寄った。

「よう、随分張り切ってるじゃないか」
「? おう、どうした。忘れ物か」

 熊野に気づいた大神は、少しだけ顔を上げると、またパソコンに視線を戻す。
 
 熊野は、おもむろに話を切り出した。

「…今日な、トーコちゃんと、ホテル行った」

「へえ……そりゃあ、おメデタイ。
 ついにシロート童貞、卒業だな」

 大神は抑揚のない声で返した。

「違うわっ!
 なあ大神。
 あの子な、泣くんだよ。…だから……何もできなかったんだ」
 ギュッと拳を握り締めて俯いた熊野に、大神は手をようやく止めて、考えるように腕組みをした。
 
「そうか。
 やっぱり…そうじゃないかと思ってたんだ」

「てことは、オマエも…
 気づいていたのか!?」

「ああ」
 大神は少し寂しそうに笑うと、熊野の腕をポンと叩いた。