「いいんじゃない?別に」

 都内のシティホテルの一室。

 今日は、大神と松嶋の交際を内外に示すための、オフィシャルな社長公認デートの日。

 ベッド脇に腰掛け、熱心に妊娠雑誌を読みふける松嶋七緒は、大儀そうに答えた。

「でも、君だって嫌だろう!?
俺とその、『結婚』だなんて」

 大神はずいっと彼女に詰め寄ると、膝に置いてある雑誌をサッと奪った。

 社長の提案には、松嶋だって迷惑しているはず…
 そう踏んだ大神は、まず彼女を切り崩しにかかった。

 交渉事や根回しには、少なからず自信がある。特に相手は女性、舌先3寸で丸め込むのは、彼の最も得意とするところだ。

 お気に入りの彼女が嫌だと言えば、社長だってきっと考え直すに違いない。

 ところが…
 
「あら別に?私は構わないわよ。
 これまでと一緒、フリだけしてればいいんだし。
 そもそも、アンタと夫婦やる気なんかサラサラないからね~」

 うぐっ…

 喉を詰まらせた大神から雑誌を奪い返すと、彼女はまた読んでいたページを探し始める。

 大神の話など、まるで聞く気がないらしい。

「いや、そうは言っても結婚となると、世間的にも色々あるだろう。
 子供だって大きくなったら
“あれ?ウチ、何か違うな”
と思う瞬間が必ず来るだろう。
 そうすればきっと生育にだって問題が…」