* * *

「はー…やっとベッド…。」
「お仕事、本当にお疲れさま。」
「あーありがと。今年は忙しかったなぁ…。」
「うん、そうだね。帰りもぐんと遅くなっちゃったし。でも風邪とかひかなくて良かった。」
「それはこれだけ健康管理されてちゃむしろ風邪ひけないでしょ。」
「健康管理?」
「毎日ほぼ決まった時間にヘルシーなメニュー。快適な家庭環境。冬場は温かい湯たんぽ代わりの20歳犬系男子。」
「犬系男子って俺?」
「健人以外に誰がいるの。」
「あ、でもそのなんとか系っていうやつね、そういえばこの前何かで読んだよ!綾乃ちゃんはね…なんだったっけな…あ!ペンギン系!」
「はぁ!?なにそのペンギン系って!」

 そんなもの、生まれて初めて聞いた。

「マイペースに自分のことは自分で決める理性的なタイプのことを言うんだって。綾乃ちゃんだこれーって。」
「ペンギンの方がよっぽど可愛いけどね。」
「そうかなぁ。俺には綾乃ちゃんの方が可愛いけど。」

 そういって正面からぎゅっと抱きしめてくる犬系男子。やっぱり温かくてこの温度は素直にありがたい。

「あー…人間湯たんぽ。」
「体温高いんだよ、昔から。だからしょっちゅう熱だと間違えられた。」
「あはは。周りはみんな健人のこと心配だったんだね。温かい人が周りにたくさんいたから、健人もそうなんだよ。」
「…そう、かな。そうだと嬉しいけど。」
「…健人。」
「なぁに?」

 額を重ねながら、健人が尋ねる。綾乃は頬にそっと手を伸ばした。

「家族のことを思い出したから、べたべたしたかったんじゃない?」
「…あはは、綾乃ちゃんに隠し事できないなぁ。多分、そうだと思う。」

 唇が優しく触れた。存在を確かめるかのように、もう一度軽く触れて、優しく離れる。

「喪失が怖いって感覚は、今はもうそれほどじゃないんだよ。でもね、思い出すと急に胸の奥がきゅうっとして寂しくなっちゃうんだよね。それ、多分治らないやつだと思う。」
「…そうだね。治んないかも。」
「でも、綾乃ちゃんをぎゅってしてると、良くなる気がするんだよ。」
「じゃあお好きなだけどうぞ。」

 それくらいのことでよくなるなら、抱きしめることを許可するし、何なら抱きしめ返してあげよう。