「では、お二人の婚約を祝して。乾杯」


来賓の音頭で、招待客がいっせいにグラスを上げる。

豪華なホテルの宴会場で、着飾った人々が談笑しながら、テーブルの上の料理を楽しんでいる。

私はシャンパングラスの細い足を持ったまま、ぼんやりと忙しく動き回っている黒服の従業員を見ていた。

部屋の壁際には、SPが何人も立っている。

彼らは全員動きやすそうなスーツを着ていて、この場とはまったく合っていない。


「この度は、ご婚約おめでとうございます」


高級そうなスーツに、シルバーのネクタイをした中年の男性が、和装の女性を連れて目の前にやってくる。


「ありがとうございます」


隣にいる男が、目の前の夫婦に微笑みかけた。

黒のタキシードを着た、黒髪の彼。これに黒いマントが付いていれば、昔の少女戦士アニメのヒーローに激似だと思う。

ふっと笑った私を見て、夫婦はホッとしたように微笑む。

彼らが去ってから、隣のタキシード男が小声で言った。


「もう少し、愛想良く話せないものかな。みなさん、僕たちのために集まってくれているんだから」