ところが、今日に限って酔えなかった。その理由は、俺より先にふゆみさんが酔ってしまったからだ。不思議なもので、連れが酔うと、自分は酔えなくなるらしい。

「ふゆみさん、大丈夫ですか?」

「ん……大丈夫、じゃない」

 2人で軽く一升は飲んだと思う。その前に生ビールを3〜4杯飲んだし、アルコールに強いふゆみさんでも、酔って当然だと思う。

 俺たちは居酒屋を出て、地下鉄の駅へ向かった。ふゆみさんは足がもつれており、俺は必然的に彼女の腰に手を回し、支えて歩いている。

 コート越しながら、ふゆみさんの腰、というより、脇腹の柔らかな感触が艶かしい。

 とにかく彼女を電車に乗せよう。いや、それだけでは心配だ。俺とは方向が違うが、彼女を家まで送って行こう。

 そんな事を思っていたら、

「トメテ?」

 とふゆみさんは言い、俺たちは立ち止まった。一瞬、"止まって?"と言われたと思ったからだ。

 だが実際は"止めて?"だったわけで、だとすると、何を止めれば良いのかな……

 ああ、そういう事か。

「タクシーですね?」

 金は掛かるが、確かにタクシーで帰った方が安全だろう。だが、待てよ。俺はどうすればいいんだ?

 運転手さんに任せて、"さよなら"でいいのだろうか。普通はそれでいいと思うが、俺は安心出来るだろうか。いや、出来ない。

 では、俺も一緒にタクシーに乗り込み、ふゆみさんを家まで送ったとする。その後どうすりゃいいんだ?

 ふゆみさんは実家暮らしらしいから、泊めてもらうわけにはいかず、電車で帰るのはかったるいし、そのままタクシーが楽だが、いったいいくら掛かるのか。タクシーって、クレジットカードは使えるんだろうか?

「ちがーう」

 やっぱり違うか……って、

「え?」

 ふゆみさんを見たら、トロンとした目で俺を見ていた。しかも顔が近く、あとほんの数センチでキス出来るほどだ。

「三浦君んちに、泊まらせて。お願い……」

 さっきの"トメテ?"は、"泊めて?"だったらしい。