俺はこのところ、何もかもに意味もなくイラついていた。

15歳、反抗期ってやつだろう。


最初は他愛もない話だった。

アイドルグループの中で誰が一番好きかとか、クラスの女子で一番胸が大きいのは誰かとか、そういう中学生男子らしい馬鹿な話題で盛り上がってたんだ。

「昴はモテるから、やろうと思えばいくらでも相手がいるからいいよな〜」

「だよなー、あのD組にいる妹?
あの子だって血繋がってないんだから全然アリだろ」

「マジ? 昴、あの子とそういう関係なの? 一緒に住んでるとか、超おいしいじゃん」

瑶の事でこんな風にからかわれるのは、日常茶飯事だった。
血の繋がらない同じ歳の妹なんて、他人からしたらそりゃあ面白いネタだろう。

とっくに仕方ないと諦めていた俺は、いつも通りに笑ってお決まりのセリフを言った。

「ないない。血繋がってなくても小学校から一緒にいると完全に妹だって。近親相姦みたいで、気持ちわりぃよ」

大抵の奴は、こう言えばそんなもんかと納得してくれて話が終わった。

この時のメンバーは悪ノリがひどすぎたと思う。

「昴はそうでも、向こうは違うかもよ。
昴に誘われたら、絶対喜ぶって」

「えー、あの子は奥手そうだからないだろ」

「ばーか。女子はあういう大人しそうな子ほど、遊んでんだって。 だって、あの子なんか大人っぽい感じするじゃん」

「なぁ、昴。誘ってみろよ。 そんで、簡単にさせてくれる子だったら教え・・」

気が付いたら、最後のセリフを吐いた奴の胸ぐらを思いきり掴んでいた。


「うっせぇな。
お前らのいう通りさ、俺は女には困んないから妹なんかに手出さねーよ」

友達に声を荒げたのなんて、これが初めてだったと思う。

いつもとあまりにも違う俺の態度に呆然とする友人達に帰ると言い残して、俺は乱暴に教室の扉を閉めた。




「昴、ちょっと待って」

下駄箱で外靴に履き替えようとしたところで、陽太に追いつかれた。

陽太はあの手の話題に俺が内心うんざりしているのを知ってるから、さっきも黙って話題が変わるのを待っていた。

「昴、ごめん。 他の奴らも悪気はないっつーか・・いや、悪気ないからいいってもんじゃないのはわかるんだけど・・」

「うん、わかってる。 俺もちょっと寝不足でイラついてたんだ。皆に陽太から謝っといて」

いつもの俺に戻って明るく言うと、陽太はほっとした顔を見せた。

「ついでに、もうひとつ。瑶は簡単にやらせてくれるタイプじゃないから、他を当たれってアイツに言っといて」

陽太は了解と笑って、みんなのところに戻っていった。