・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

そのネームプレートは、私が出て行ったときと同じ色、同じ場所にかかっている。

武骨な字で書かれた『本城』。

何か変わっていたら良かったのにと身勝手なことを思う。

変わっていたとしても、きっと私は別のことを願うはずだから。

ドアのチャイムを鳴らそうとする指は小刻みに震えている。

ピーンポーン、と音が鳴った。

足音が近づいてくる。

この旧式なアパートはカメラ付きではないから、住人が直接出て来なければならない。

緊張が身体を駆け巡る。ドアが開いた。

「…あさ、先輩」

巧真だ。

「…こんばんは。約束も無しに、急に来てごめんね」

巧真は一瞬視線をさ迷わせた。

「いや──」

「荷物取りに来ただけだからね、安心して」

矢継ぎ早にそう告げる。変に力が入って、声が掠れた。


巧真は小さく微笑んで、ドアを大きく開けてくれた。

ありがとう、と言って中へ入る。

リビングに通され、辺りを見回す。

コンビニ弁当のごみや、買ってきた惣菜のパックが置いてあったり、捨てられたりしている。


また、相変わらず外食ばかりしてるのかな。

そういえば疲れた顔してる。

寝癖も残ってる。寝てたのかな。

そんな考えが頭に浮かんで、苦笑する。