「なんなの? アホなの? おまえは遠慮とか常識とか空気読むスキルとか全部母親のおなかの中に置いて来たの?」



真新しいアパートのドア横にあるインターホンを連打すること8回、ようやく部屋の中から姿を現した男友達は、心底不機嫌な顔と声音でそうのたまった。

鋭利な刃物のようなその言葉たちを受けて、私はへらりと笑う。



「えー、ひどいな三郷(みさと)くん~~とりあえず外寒いから中に入れてくれない?」



ほらほらおみやげもあるから~と、右手にある重たいコンビニ袋を持ち上げて見せた。

それをメガネ越しの鋭い眼差しで見下ろし、ますます眉間のシワを深くする三郷くん。



「こんな時間にアポなしで突撃したと思えばなに、人んちで酒盛りしようってわけ?」

「だって、家でひとりで飲んでてもつまんないんだもん」

「つーか笹原(ささはら)、おまえ酒くさ。すでに一杯ひっかけた後かよ」



呆れたようにため息をつき、それでも三郷くんはドアを大きく押し開けて私を招き入れてくれる。

えへへへへー、としまりのない顔でお礼を言って、もう何度訪れたかもわからない彼の家に足を踏み入れた。



「うーん、やっぱりいつ来ても三郷くんの家は片付いてて綺麗だねぇ」

「おまえと一緒にすんなよ、ものぐさ女」

「え、ひど! 大学んとき以来ウチ来てもないのに、その言い草! まあ散らかってますけど!」

「当たってんじゃねーかよ」