『ごきげんよう』

教師も生徒も『ごきげんよう』

始業時も終業時も『ごきげんよう』
登校時も下校時も『ごきげんよう』

廊下ですれ違う時にまで『ごきげんよう』ときたモンだ。

『ごきげんよう』、万能すぎじゃね?

てか、もはや意味など皆無じゃね?

同じ意味のない言葉なら、明日は軽く片手を上げて微笑みながら、『ひでぶ!』なんて挨拶してやろうか。

まぁ、やりませんケドね。

ドン引きは目に見えてるし。
目立つコトすると、色々と面倒だし。

ソレよりナニより、明日は登校する必要ないし。

夏休みが始まるからね。

そんなワケで。

実にお行儀よく謎の『ごきげんよう』を口にした芦原 透子(アシハラ トーコ)は、お嬢サマばかりが通う、ミッション系の名門女子校を後にした。

彼女はフツーの女子高生。

成績は中の上。
運動しても中の上。

校内で孤立しているわけではないが、特に親しい友人もいない。

校外でも、お嬢サマの殻を破ってハジケることもなく、下校中に渋谷の書店に立ち寄る程度。

秀でた点もなければ、問題点もない。

数年後、卒業アルバムを開いた時に、担任教師もクラスメートも
『あー… いたね、こんなコ。
名前なんだっけ?』
なんて頭を悩ませそうな、地味めな女子高生。

学校での評価と同様、見た目だって地味。

流行に乗るわけでもなく、個性を追及するわけでもなく、まさに可もなく不可もなく。

街を歩く時も、電車の中でだって、透子は背景に溶け込むように存在している。