燃え立つような赤が、暗紫色の夕闇に覆われてゆく。

けれど、ビルに四角く切り取られたその幻想的な空を、誰一人見ようとはしない。

渋谷駅前には『ウォーリーを探せ』レベルで人が犇めき合っているのに、誰一人として空を見ようとはしない。

夕方は忙しいしネ。
夏だから暑いしネ。

誰も皆空の色なんて気にせず、急ぎ足で目的地を目指す。

だが、人の視線を集めているモノもある。

それは一人の男。

シルバーグレーの長めの髪と褐色の肌を持つ、長身で均整のとれた身体つきをした異国の男。

大きなレイバンで顔の上半分は隠されているが、引き締まった口元と、完璧なEラインを保持した横顔を見れば、美形であることは疑いようがない。

キレーな空はスルーするクセに、キレーな男は見ちゃうンだ?

全く…
これだから人ってヤツは。

でもね?
見るだけだから。

渋谷のスクランブル交差点は観光スポットにもなっていて、訪れる外国人なんて今さら珍しくもない。

いくら美形でも、言葉が通じるかどうかもわからない観光客と、積極的にコミュニケーションを取ろうとする勇者にはなれない。

だからすぐに視線を逸らし、それぞれの目的地を目指す。

結果、やっぱスルー。

行き交う人々にとっては、空も男も変わらない。

自分たちとは関わり合いのない、背景の一部に過ぎないのだ。

男にとっても、きっとそう。

渋谷名物となっている規律正しい民族大移動を、ただただ物珍しい見せ物として眺めて…