「きりたにー?」

「……」


返事は無言。

聞こえていることは分かっているけれど、彼に呼ばれるまでこの場を動こうとしない自分も頑固だと思う。


「きりたにー」

「……」

「桐谷ってば、聞こえてるでしょ」

「……」


むくっと起き上がるグリーンのカーディガン。

シルキーアッシュをくしゃりと掻きながらゆっくりと振り向いて。


「よっこ」


楽しそうにそう呼ぶ。

呼ばれた瞬間、駆け出すわたしは、ただの従順な犬なのかもしれない。

右隣に腰を下ろせば、ゆらりと瞳を細めた。


「もう三限目?」

「うん、ライティング」


呟くように言うと、興味なさげに欠伸をする。

聞いてきたのはそっちなのに、と唇を尖らせると桐谷は笑った。