「あー、暑い」




「もう外出たくない」





もうすぐ夏休み。


その前にテスト。


高校生の7月に、


余裕なんてない。


そんなある日の放課後。


あたしの携帯が震えた。





「はーい、もしもし」




『今日早く終われそうなんだけど、空いてる?』





悠太郎からの電話に、


一瞬で胸をときめかせる。






「うん、大丈夫。今ね、会社の近くだよ」





悠太郎の会社は、


あたしの家と学校のほぼ真ん中にある。


大きくそびえ立つビルの


何階かにいるんだとか。





『近くで待ってて』




「了解」





電話を切り、今いる場所を確認。


いつもこういう状況になると、


会社の近くのカフェで


待ったりするんだけど。


今日はそのカフェを通り過ぎていて、


戻る気にもなれない。





「いっか」





少し悩んで、


悠太郎を驚かすために


会社に続く長い階段の中央部で


座って待つことに。


こんなことしたことないから、


悠太郎驚くだろうな。





「わ、スーツだ…」





会社の前ということもあって、


たくさんのスーツを着た人が


行き来する。


フェチではないが、


結構スーツ男子が好きだったり。


そんなことを考えている時。


階段の下の方で、男の人が


何かの資料を落とした。


あたしは駆け寄り、


拾い集める。





「大丈夫ですか?」





目の前の男の人は、


茶色よりも少し明るい髪色で、


スーツを崩して


着ているように見えた。





「これで全部です」






落とした資料には、


たくさんの文字や図が書かれていて、


あたしには目の痛いもので。


必死に拾ったその資料を、


目の前の男の人は


ぶっきらぼうに、どうもと


言いながら受け取る。