「妃名子、買って来たよ」



「もう、あたし行けるって言ってるのに」




妊娠が発覚してから、


すぐ鳴海に話した。


意外と驚きよりも、


呆れのが多かった気がする。


なぜかというと、


朝陽の話も含めて言ったから。





「だめだよ。購買はお昼、戦争なんだから」




人多いし。


そう言う鳴海は、


すっかり父親顔。


妊娠していることを知った鳴海は、


朝陽なんかが父親になるなら、


自分がなると言ってくれた。


それから毎日お昼も買いに


購買へ向かってくれたり、


体育を一緒にサボってくれたり。


本当に父親になれるんじゃないか、


ってくらい、たくさんあたしを


甘やかしてくれている。





「昨日検診だったでしょ?どうだった?」




「これ、写真。少しね、大きくなってた」





先生にもらったエコー写真を


鳴海に渡すと、


自分のことのように喜んでくれて。





「絶対女の子だよ」




「そうかなあ?」




毎日毎日この会話。


だけど飽きずに未来の話をする。


何を着せるとか、


どんなスポーツさせるとか。






「あ…そうだ」




「ん?」





鳴海は少し間を開けて。





「今日、蓮哉さんの誕生日だって、知ってる?」




「…本当?」





今日が、蓮哉の誕生日。


初めて知った。


あたしは何も知らない。


蓮哉がいつ誕生日なのかも、


血液型も、生まれも、


全く知らない。





「千秋さんに聞いた」





一応教えておこうと思って。


そう言うと、鳴海は


不安そうな顔を見せる。





「行かない…よね?」




「…もちろん」





言うと思った。


鳴海は妊娠が分かってから、


蓮哉のことを口にしなかった。


きっとあたしが、


会いに行くと思ったから。


行けば、待つかもしれないし、


そしたら体にも悪い。


だからきっと、


今まで何も言わなかった。






「やば、授業始まっちゃう」




「準備しよ」





鳴海は自分の席に戻り、


教科書を準備する。


あたしも同じように準備をし、


席に座って先生を待つ。


次はあたしの大嫌いな数学だけど、


そんなことはどうでもよかった。


数学のことよりも、


あたしの頭の中にあったのは。





「どうしよ…」





蓮哉の誕生日のこと。


蓮哉に最後に会ったのは、


告白したあの日。


あれ以来、会っていない。


別に考えなかったわけじゃない。


だけど、考えちゃいけない気がした。


赤ちゃんのためにも。


自分のためにも。


だけど、そんなこと言ってられない。


だって、今日は蓮哉の誕生日だから。


誰かに祝ってもらうかもしれない。


またお姉さんと一緒に


いるかもしれない。


でも、あたし。


祝ってあげたい。


言いたい、おめでとうって。


やっぱり、会いたい。


そう思ってしまった。