……試練……



3776メートル。




この数字が意味をするものは──。







私達が今から登ろうとしている、つまり富士山の標高の高さなのである。





五合目まではバスで来た。





ここから先はただ徒歩のみ。







現在の時刻は夜の午後7時頃。






当然、周りは暗く、よく足元を見ていないと簡単に躓いて転んでしまいそうになる。






全員、ヘッドライトを装着し登山に挑む用意は万端だ。








山頂までは途中何度かの休憩を入れて約10時間をかけて登る予定。





そして、これから翌朝の早朝の午前5時頃に出る御来光を目標に頑張る。






日本で一番高い山に挑戦をしようとしていることにいささか不安を感じて、一歩また一歩と踏み出す足元が慎重になる。







溝口先生が先頭を歩き、その後をキャプテン、副キャプテン……と続く。





私の前には坂口くんがいる、まだ登り始めたところだから苦しそうな表情を一つも浮かべていない。







しかし、私の後ろにいる後輩の高谷さんは、「先輩、いつになったら一度休憩をするんですか……?」と辛そうな表情で私に尋ねる。





「さぁ、いつなんだろうね。たぶん、溝口先生しだいじゃないかな……」と私は息を切らせながらその時あやふやな返事をした。







先はまだまだ長い、ゆっくりゆっくりと少しずつ皆で足並みを揃えながら登っていく。





菊恵は、もしかしたら……と色々なことを想定をしてリュックの中に荷物をいっぱい詰め込んできた。







山でもしも遭難をした時、一番に食料が必要だろうと考えた。







あぁー、リュックが重い。






リュックの中身は、ラムネ、チョコレート、ナッツ、乾パン、眠気覚ましのガム、飴、煎餅、ドライフルーツ、ようかん、ドリンク剤2本、梅干し、カップラーメン、雨具、カイロに水筒……、あと簡易の酸素ボンベ。






おおよそ8割近く食べ物が占めているような気がする。






もう少しよく考えて登る前に荷物を減らすべきだったと額から流れる汗を拭きながら反省をする菊恵。







七号目を過ぎた辺りから酸素が少し薄くなり始め、空気がひんやりと冷たくなってきていることを肌で実感した。